第二回となる今回は、物理学の異分野との境界にある研究分野についてざっくりと解説していきます。
物理の主要分野「素・核・宇宙」と「物性」については下の記事で解説しています。
物理学生の生の声を届けるため、主観的な要素を多く入れるようにしました。
分野によって研究室の色も異なるので、参考にしてください。
文章が冗長になるので、これからは「だである調」にしますがお気になさらず。
工学との融合分野
量子情報科学
量子情報科学(りょうしじょうほうかがく、英: quantum information science)とは、量子論の中でも情報理論に関する研究領域、およびその結果を応用した科学技術を指す。
Wikipedia「量子情報科学」より引用
「量子情報科学」の主な研究内容 | 量子テレポーテーション、量子情報処理 |
「量子情報科学」に近い分野 | 光科学、情報理論 |
「量子情報科学」に向いている人 | 実験装置を自ら組み上げていきたい人 新しい分野に挑戦したい人 工学に興味がある人 |
研究分野としての大きさ | 小 |
院試難易度 | 難 |
有名な研究所 | 東京大学光量子科学研究センター |
「量子情報科学」は物理学の中でも比較的新しい学問である。
そのため研究室は他の分野に比べて少ない。
しかし、少領域ながら量子コンピュータなどホットな話題も多いことから、院試での難易度は少し高め。
物理学科(理学)と物理工学科(工学)がある大学だと物理工学科に分類される。
光科学
光学顕微鏡や分光学における先端的な技術は、これまで自然科学の各分野にブレークスルーをもたらし、20世紀にはレーザーや放射光などの新しい光源の出現によりそれらが著しく加速しました。それらはさらに、観察対象の性質を調べる道具としてのみならず、光による制御の技術を生み出し、光科学の広い分野への応用を可能としています。
大学共同利用機関法人自然科学研究機構HPより引用
「光科学」の主な研究内容 | レーザー科学、分光学、量子光学 |
「光科学」に近い分野 | 量子情報科学、電気電子工学 |
「光科学」に向いている人 | 実験装置を自ら組み上げていきたい人 技術開発に興味がある人 工学に興味がある人 |
研究分野としての大きさ | 小 |
院試難易度 | 普通 |
有名な研究所 | 東京大学光量子科学研究センター 電気通信大学レーザー新世代研究センター |
「光科学」は先述の量子情報科学に近いが、こちらは量子系ではないマクロな光を扱う。
光科学という学問は割と古くからあるが、レーザーや計測機器の性能向上により研究の幅がたいへん広がっている。
物理工学科に光科学の研究室はたいてい存在するため、院試難易度はそれほど高くない。
また、工学寄りなので就職は物理学のなかでは良い方だろう。
プラズマ・核融合工学
プラズマとは簡単に表すと、気体の状態で電気的にエネルギーを与えられた物質である。物理的にも化学的にも通常の気体とはまったく異なった性質を示すプラズマについて、その特徴や有用利用について研究を行う工学である。
Wikipedia「プラズマ工学」より引用
「プラズマ工学」の主な研究内容 | 核融合、プラズマ |
「プラズマ工学」に近い分野 | 原子核物理学、電気工学 |
「プラズマ工学」に向いている人 | プラズマ状態や核反応に興味がある人 エネルギー問題の解決に貢献したい人 工学に興味がある人 |
研究分野としての大きさ | 中 |
院試難易度 | やや易 |
有名な研究所 | 東京大学新領域創成科学研究科 東京工業大学環境・社会理工学員融合理工学系 |
物理学でなく電気電子系学科や融合系学科に分類される「プラズマ・核融合工学」
核反応はエネルギー工学と関連の深いため、社会的な需要が特に高いのが特徴。
研究需要が高まったのが最近なので、大学院は融合系コースや別キャンパスに設置されていることが多い。
したがって、本キャンパス志向の内部生の受験は少ないため、院試は比較的易しい。(プラズマ工学などが易しいわけではない)
生物学との融合分野
生物物理学
生物物理学は、生命の本質を物理的考え方、物理的方法で研究し理解しようとする学問。生命を構成する物質には分子から個体そして生態系まで階層構造が見られます。生物物理学の目的は、各階層における生命現象について、物質科学的基礎を理解し、その階層をつなぐ原理原則を見いだし生命現象を解き明かすこと
日本生物物理学科HPより引用
「生物物理学」の主な研究内容 | 蛋白質、核酸、神経系 |
「生物物理学」に近い分野 | 生物学 |
「生物物理学」に向いている人 | 生物学に興味がある人 物理的な視点を異分野で活かしたい人 実践的な研究をしたい人 |
研究分野としての大きさ | 小 |
院試難易度 | 普通 |
有名な研究所 | 東京大学理学系研究科物理学専攻 京都大学理学系研究科生物学専攻 |
最後に紹介するのが「生物物理学」
物性現象や運動法則を模型として考える物理学的思考を生物学に応用したのが生物物理学である。
生物物理学の研究をしている研究室はそれほど多くないのが現状。
研究室によってはマウス等の生物を扱うため、物理の他分野研究室よりも拘束時間が長くなる可能性がある。
まとめ
工学との融合「量子情報科学」「光工学」「プラズマ・核融合工学」
生物学との融合「生物物理学」
今回は以上の分野の特徴を物理学徒が紹介してきた。
「化学との融合に固体物理があるじゃないか」「天文学との融合に宇宙天体物理があるじゃないか」等々の声が聞こえてきそうである。
しかし、それらは物理の主要研究領域であるため、下の記事で解説している。
大学院は2年間ずっとその学問とのにらめっこになるので、院試の難易度に左右されずに一番興味の湧く研究分野に進んでほしい。
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